浅間山
東京方面から長野に向かって上信越道を走る。
浅間山の裾野を走るとき、この山の雄大さにいつも心を打たれる。
左手に黒斑岳と前掛山を連ね、ずっしりと落ち着いた浅間山は見事なほどに雄々しい。
真っ白い雪を頂いた姿は美しくもある。
若い頃、親友と二人でこの山に登ったことが昨日のことのように蘇って来た。
軽井沢にある寮に一泊し、山登りの支度もないまま無謀にも浅間山に挑戦したのである。もちろん登山の経験など全くなかった。
前掛山であったか、黒斑岳であったか忘れてしまったが、浅間山を目指しながら歩を進めて行くと少し開けた場所に出た。
「あっ!!」と息を飲んだ。
白く枯れ朽ちた木々が何本も僅かな枝を残して佇んでいる。私は友人に思わずこう言った。
「まるで、天狗が出てきそうなところだな・・・!」
幻想的な風景は、ここだけが別世界であるような気がした。
そう・・・今にも天狗が飛び出してきそうな・・・。
なんと、そこは『天狗の原』と名付けられていたのだ。これにも二人は顔を見合わせた。
浅間の斜面を登り始め、あと少しで山頂というところで雨が降り始めた。軽装の二人にとって決断は早かった。
「降りよう!」
あてもなく、ただひたすら下へ下へと里に向かって歩いた。
幸いにも雨は次第に小降りになり、周囲の明るさも増して会話も弾んできた。
途中、透明な湧き水を見つけた。結構な水量が地中から次々と湧き出てくる。水は冷たかった。
靴はびしょ濡れであったが、軽快な足取りで街を目指した。
そして再び「あっ!!」と息を飲んだ。
目の前に、真っ赤に染まった滝が現れたのだ。茶色ではない。「赤色」そのものなのだ。
滝は川になり、その先の川沿いに手作りの小さな立て看板があった。「血の川」と書かれていた。
先ほど見つけた湧き水が周囲の水を集め、鉄分をたっぷりと含み真っ赤に染まりながら大きな流れを作ってきたのだ。
この川の先には「血の池」もあると言うことであった。
驚いた。
どのくらい歩いたのか、やがて薄暗くなってきた頃、町並みが見えてきた。
軽井沢から登り始め、下って着いた所は「信濃追分」。ずいぶん遠回りをしたものだ。
また雨が降り始めたため、駅舎の軒下で雨宿りをしていると、タクシーがはいってきた。
タクシーで軽井沢の寮に向かう間中、車の天井を雨が激しく打っていた。
ちょっとした冒険であった。幾つもの経験と思い出が詰まった1日になった。
「天狗の原」も「血の川」も、今はどうなっているのやら・・・
うん十年も前の出来事であるが、浅間山を見る度に昨日のことのように思い出す。
by K.Terasawa
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