ウルトラ・ダラー
NHKのワシントン支局長を務めて2005年に退職した手嶋龍一氏の処女作。
9.11同時多発テロの報道では、いつもブラウン管に映っていたあの人である。
浮世絵のオークションから始まるこの物語は、BBC(英国放送協会)東京特派員であるティーブン・ブラッドレーが北朝鮮の精巧な偽ドル札ウルトラ・ダラーの闇を追うというストーリー展開。
スイス製の紙幣印刷機がローザンヌからマカオに輸送された。しかしそこから印刷機は忽然と姿を消してしまう。35年前に東京荒川の彫刻職人が姿を消した。
日本人拉致の真相と偽ドル札とが奇妙に重なり合い不気味な展開をみせてくれる。
著者自身がドキュメント・ノベルと位置づけるこの長編小説は、本の帯にも『これを小説だと言っているのは著者だけだ!』と書かれているように、小説というかたちをとる以外に世に送り出す術がなかったのだという。
とにかく面白い。この物語が真実に近いものであると言う前提で読み進めると余計に引き寄せられる。
登場人物を現実の人々に重ね合わせながら読むのもおもしろい。
高遠希恵という女性の官房副長官が登場するが、私は安倍晋三前総理と置き換えてみた。
拉致被害者の奪還に奔走した当時の安倍さんが、まさに重なって見えてくる。
あまりの面白さに、手嶋氏が運営するサイト「スティーブン・クラブ」の会員になってしまった。すぐにでも映画化できそうな一級のインテリジェンス小説だと思う。
(番外)
主人公スティーブンはBBC(英国放送協会)東京特派員で、もうひとつの顔は英国秘密情報部員。彼の苦手なものが「叶姉妹」「ルーズソックス」「馬刺し」と言うから面白い。
また、実際に極東配置された諜報部員の中に、まったく同じ名前の男が存在したという。本小説の主人公とは何ら関係はないのだろうが、偶然とはいえ驚きである。by K.Terasawa
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